全国通訳案内士試験の出題の有力出典として「観光白書」があります。この「観光白書」は、主として一次筆記試験の「一般常識」の出題の出典とされており、実際、毎年、観光白書から問題が出されます。
しかし、実は二次口述にも「観光白書」は関連しています。次の例があります。
2021年度 時間帯2 問題組② 外国語訳問題
次の文を読み上げますので、通訳してください。
「日本には、城や寺といった歴史的建造物が各地に数多く存在します。こうした観光資源を滞在型コンテンツとして活用すべく、『城泊・寺泊』の取組が推進されています。地域活性化の一環として、2018年には京都の仁和寺が、2020年には愛媛の大洲城が、1泊100万円で宿泊を提供して話題になりました。」
この問題文に近い文が、令和2年度の「観光白書」コラムⅡ-3 P.97以降に見られます。以下、引用します。
(以下、引用)
…観光庁は、2019年(令和元年)より訪日外国人旅行者をターゲットにした滞在型コンテンツとして、「城泊・寺泊」の取組を推進している。これは、日本各地に点在する城や寺を宿泊施設として活用し、城や寺で宿泊するという特別な体験を相応な料金で提供することで、訪日外国人旅行者の消費額拡大を図ることを目的としている…(中略)…愛媛県大洲市の大洲城では、木造復元の天守閣に滞在する城主体験宿泊が2020年(令和2年)内開業に向けて準備が進められており、1泊100万円(2名利用時)から提供する。世界遺産認定の仁和寺では、境内の歴史的建築物に滞在し、原則非公開の文化財の鑑賞や、特別な文化体験と宿泊滞在が楽しめるプログラムを、1組1泊100万円(1組5名定員)で2018年(平成30年)4月から提供している。
(以上、引用終わり)
ご存知の通り、通訳では原文の「聴き取り」が最も大切です。聴き取りの中でも意外に難しいのが固有名詞と数字です。上記の引用文から、「大洲城(おおずじょう」と「仁和寺(にんなじ)」という固有名詞、「2020年」「2018年」「1泊100万円」という数字が、通訳問題文に使われています。
通訳に慣れていない方にとっては、「日本語の聞き取り」という概念自体になじみが薄いかもしれません。英語学習者としては、「英語の聴き取り」についてはリスニング対策の勉強をしますが、「日本語」については母語であるため、「聴き取れるか」という意識自体持たないためです。
しかし、「通訳のために聴き取る」というのは、日常会話を「聴き取る」のとは異なるのです(私はこれを「通訳聴き」と言っています)。母語であっても、「通訳のために聴き取る」ことには大変な労力を要します。
実際、固有名詞の「大洲城(おおずじょう)」は、姫路城や大阪城と比べればそれほどメジャーな城とはいえず、聞いたことがない方も多いことでしょう。現場で聴き洩らせば、通訳に大いに影響します。
ちなみに大洲城の大洲藩は、幕末、坂本龍馬の海援隊に有名な「いろは丸」を貸した藩です。
さて、実は、PEPの合格者で、昨年、この観光白書を事前に読んでおり、この問題にあたり、聴き取りの点で大変有利に解答できた、という方がいらっしゃいます。合格体験記がありますので、ご覧ください(「日本語で話せることなら英語で話せる」と不動の自信を得て合格! 大倉様)。
今年度の試験のために読むべき令和4年版の「観光白書」は、316ページ、令和3年版の「観光白書」は412ページあり大部です。受験予定の方は、早めに読み込みを開始しましょう。
「観光白書」をご自分で印刷される方は、国交省のHPからダウンロードできます。
「観光白書」の印刷サービスはPEPオンラインストアで購入可能です。カラーレーザープリンターで両面印刷しますので、蛍光マーカーを引いても滲まず、嵩張りません。印刷作業が苦手の方、印刷時間を節約したい方(家庭用プリンターの速度は1ページ10秒程度で、令和4年度版を印刷するのに1時間程度かかります)にお勧めです。