このエッセイシリーズもそろそろまとめに入ります。「合格後を考える」は、2021年度の全国通訳案内士試験合格発表を受けて、合格後は何をすべきか、という問題提起から始まりました。
合格後にやるべきことは、大きく分けて、①さらなる勉強をする(インプット)、②資格を生かして仕事をする(アウトプット)、の2つです。このうち、②の方には種々の問題点があるので、これらを論じました。
問題点の1つ目としては、「法改正により業務独占がなくなったのだから、苦労して全国通訳案内士の資格を取っても無駄」という考えは誤りだ、ということでした。
そもそも当該試験に受からないようなレベルの人は、市場に出ていっても、基本的に仕事をする実力がない、と通常は推定されます。「資格はないけど実力がある」という人は、極めて例外的に存在するに過ぎず、その証明は困難です。よって、業界に新規参入を志すなら、通訳案内士の資格は取得すべきです。
問題点の2つ目としては、「新人にはいい仕事が回ってこない。だから、苦労して全国通訳案内士の資格を取っても無駄」という考えは誤りだ、ということでした。
こういう苦情を言う人は、約50年前、特殊な需給関係(東京五輪や大阪万博で需要は高いが英語が話せる人の供給が少ない)の下、「ガイドの資格を取りさえすれば、学生でも時給の良いバイトが簡単にできる」という異常な事態があった頃の幻想を今でも引きずっている人です。
通訳ガイドは、本来、バイトやサラリーマンではなく、フリーランサーであり起業家です。ビジネスを起ち上げ、最初から必ずしもうまくいかないのは普通のことです。
しかし、ビジネスは、やり方によっては最初からでもうまくいきます。それは、起業家マインドを持って、自分でダイレクトに市場に働きかけること、です。そして、その手段として、ネットを利用した情報発信が有効である、という点を私は述べました。
こうして考えると、全国通訳案内士試験は、ビジネスを行うことを目的として受ける場合でも、十分に挑戦する意義のある試験だといえます。
現在は、コロナ禍で観光客がゼロに近い異常事態ですが、いずれコロナは終息します。そして、人は、体験を通じての成長を求めて移動し続けます。これは普遍的事実です。
つまり、観光業がなくなることはない、ということです。そして、今後いかにAIが発展しようとも、基本的に人間を楽しませるのは人間にしかできない仕事であり、通訳ガイドの需要がなくなることはないでしょう。
全国通訳案内士試験には、これを目指すことにより、①資格を生かして仕事ができる、②資格の有無に関わらず勉強自体が有意義で楽しい、③語学力が向上する、というメリットがあるのです。
よって、語学を学ぶ全ての人が、全国通訳案内士試験を目指すべきだ、という結論になります。「通訳ガイド試験は、語学学習者全員の必修科目」と私は考えます。
首尾よく資格取得に成功した後は、次の段階へ向けて行動できます。今はコロナ禍ですが、勉強でも仕事でも、できることはたくさんあります。
今回のエッセイシリーズが、これから通訳案内士試験を目指す方、あるいはすでに資格を取得された方、そして英語学習者一般の方の参考になれば幸いです。
ありがとうございました。
(おわり)