キング牧師の “I Have a Dream” を味わう

前回に続き、英語スピーチ暗唱学習について語っていきたいと思います。

私は、東京松本英語専門学校の1年目に「ケネディ大統領の就任演説」暗唱の課題を、とりあえずやり切りました。次の2年目は「キング牧師の I Have a Dream」が課題でした。大学3年生時で、いろいろ忙しかったのですが、頑張ってやり抜きました。

今見ると、英語としてはケネディの方が難しい感じがしますが、当時はキングの方が難しく感じました。冒頭に “Emancipation Proclamation” (奴隷解放宣言)という言葉が出てきます。ただの歴史用語ですが、こうした言葉がすごく難しく感じました。

前回、「英語学習と社会科を結び付ける」というお話をしましたが、やはりキングでも社会科の知識が出てきます。

When the architects of our republic wrote the magnificent words of the Constitution and the Declaration of Independence, they were signing a promissory note to which every American was to fall heir. This note was a promise that all men, yes, black men as well as white men, would be guaranteed the “unalienable rights” of “Life, Liberty, and the pursuit of Happiness.”

(かつて我らが共和国の建国の父祖が、憲法と独立宣言の崇高な文言を記した際、いわば彼らは、全てのアメリカ人が承継すべき約束手形に署名していたのです。この手形は、全ての人、そう黒人も白人も等しく「生命、自由、及び幸福追求」という「不可譲の権利」を保障されることを約束するものだったはずなのです)

人種差別を「手形上の債務不履行」に例えていますが、これはルソーの「社会契約説」が前提になっています。すなわち、政府が社会契約を破った(人権を侵害した)場合には、人民は実力を用いてでも政府を取り換えることができる(法律を守る、という人民側の義務をも免れる)、という考えで、市民革命の思想的支柱となっています。

当時の私は、社会契約説も約束手形もわかっていませんでしたが、とにかくこれで、覚えた英文の長さは、ケネディは約14分、1,400ワード、キングは16分、1,600ワードです。これだけの分量の英文を暗唱できたという成功経験は、前回も述べたように、私にとっていろいろな意味で大きかったと思います。

ちなみに余談ですが、このようにスピーチの時間とワード数の関係(すなわち話す速度)は、どちらも1分間に100ワードとなっています。この語数は、ずっとずっと後に、私が通訳ガイド試験の二次口述対策本『モデル・プレゼンテーション集』を書いた際の「2分間プレゼン、200ワード」という設定のもとになっています。

さて、スピーチの暗唱のもう少し具体的な成果ですが、私は翌年(大学4年時)に、英検1級に合格することができました。

大学生のうちに英検1級に合格するのは、今はそれほど珍しくはありませんが、昭和の時代では割と優秀な方でした。特に私は大学までは英語はできず(「5文型」も知りませんでした)、英検2級に合格できたのが大学2年生の時ですから(当時は準1級がありませんでした)、進歩の速度は速かったと思います。
(つづく)