合格後を考える(3)

前回、全国通訳案内士試験に合格された受講生の方から、「合格後に条件の良い仕事がない」という相談を受けた、という事例をご紹介しました。同じようなことは、多くの合格者の方に起こり得ると思います。こんなとき、どうすればいいと思われますか。

私の答は、一言でいうと「起業家マインドを持つ」ということです。

起業家マインドとは何か。それは「雇われ人マインド」の正反対、「時給脳」からの脱却、と言ってもよい。すなわち、通訳案内士という仕事は、顧客にダイレクトに価値を提供し、その対価を受け取る、という独立自営業の働き方であり、「雇用」(決められた時間内は雇用者の命令に従う。そのかわり結果は問わず、決められた時給が支払われる)という働き方とは、その性質を異にする、という事実を認識することです。

通訳案内士は独立自営業なのですから、集客は自分でするのが原則です。お客さんに来てもらうには、価値のある商品を提供できなければなりません。通訳案内士の商品はガイドというサービスです。

そのサービスの価値を高めるための研修への参加等は、企業としての「設備投資」の一種です。こう考えれば、各通訳案内士団体との距離感はどうするか、研修にどのくらい参加するべきか、は自分で答えを出せるはずです。

通訳案内士団体の歓心を買って、仕事を紹介してもらうために研修を受けるのではない。自分のガイディングの技術を向上させて、自分で集客できるようになるべく、研修を利用するのです。その意味でメリットがあると判断できるのであれば、その分だけ研修費用を投下すればよいのです。

実際、現役の通訳案内士の方の多くは、このマインドを持っておられるようです。私は、合格された受講者の方から、次のような話も聞いたことがあります。

「とある団体の研修に参加したところ、そこの講師の先生は『皆さんは、この研修が終わったら、それぞれ皆、私の競合、ライバルになるのだから、私のことを先生なんて呼ばなくていいのよ』と言っていました。」

この講師の人も、独立自営業者であり、研修を主催した団体から報酬を受けて自分の技術を披露・教授しているに過ぎない(本来、自分の同業ライバルに自分の企業秘密たるノウハウを教える、などはしないが、金をもらったので、その対価としてあくまでビジネスで講師をやっている)、ということですね。

通訳ガイド団体の研修は、同じ会社の先輩が後輩に仕事を教えるのとは違う、通訳案内士と通訳案内士団体との関係は、サラリーマンと会社との関係とは異なる、ということを、まさにこのエピソードは体現しています。

この言葉を聞いた合格者の方は、少し衝撃を受けたようです。しかし、新規合格者は、こういうマインドこそよく聞いておく必要があります。通訳ガイド団体の「うちの研修を全部受けた人から仕事を回す」などといった契約の形をなしていない言葉に対し、研修費用を支払う、などということはしてはならないと思います。

(つづく)